こんにちは、あらいぐまです。
今回は、塩田武士さんの「存在のすべてを」を読みました。
塩田武士さんといえば、映画化にもなった「罪の声」が有名ですね!
そんな塩田さんの最新作「存在のすべてを」は、2024年本屋大賞にノミネートされ話題になっています。
「存在のすべてを」は、30年前に起きた二児同時誘拐事件から物語が始まります。
この誘拐事件、誘拐された子どもは無事に保護されますが、真相は謎のまま未解決に。
最大の謎は、誘拐された4歳の子どもが3年後に戻ってきた点にあります。
しかも、しっかり教育を受け、愛情を注がれていた形跡があったのです。
犯人は何のために誘拐し、なぜ3年後に家へ戻したのか?
事件の真相を追ううちに見えてきたのは、画家世界の光と闇、そしてある家族の秘められた人生。
単行本で450ページを超える大ボリュームで、登場人物の心情を深く深く掘り下げていきます。
登場人物の心理描写が深く丁寧に描写されているので、物語の世界観に没入できます。
真相を知った後半は、深夜ボロ泣きしてしまいました・・・
物語のネタバレは控えつつ、印象に残った言葉を紹介。
タイトルの意味も考察していきます!
あらすじ
平成3(1991)年に神奈川県下で発生した「二児同時誘拐事件」から30年。当時警察担当だった大日新聞記者の門田は、令和3(2021)年の旧知の刑事の死をきっかけに、誘拐事件の被害男児の「今」を知る。彼は気鋭の画家・如月脩として脚光を浴びていたが、本事件最大の謎である「空白の三年」については固く口を閉ざしていた。
朝日新聞出版 HP
異様な展開を辿った事件の真実を求め、地を這うような取材を重ねた結果、ある写実画家の存在に行き当たるが――。
「週刊朝日」最後の連載にして、『罪の声』に並び立つ新たなる代表作。
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登場人物
門田 次郎:大日新聞宇都宮支局長。1991年「二児同時誘拐」発生の際、刑事の中澤と出会う。
中澤 洋一:神奈川県警の刑事。1991年「二児同時誘拐」の捜査に関わる。
立花 敦彦:1991年12月11日、小学6年生だった敦彦は誘拐。その後無事保護される。
内藤 亮:1991年12月11日、4歳だった亮は誘拐。その3年後に祖父の家へ帰宅。
木嶋 茂:亮の祖父。
木嶋 塔子:亮の祖母。
内藤 瞳:亮の母親。亮を虐待していた。
野本 雅彦:瞳の内縁の夫。
野本 貴彦:雅彦の弟。写実画家。
野本 優美:貴彦の妻。
如月 脩:30年後の内藤亮。画家としてのペンネーム。
岸 朔之介:画廊「立花」を経営する画商。
土屋 里穂:内藤亮の高校時代の同級生。父が経営する「わかば画廊」を手伝っている。
印象に残った言葉とタイトルの意味
印象に残った言葉とタイトルの意味を考察していきます。
写実絵画は人間の見た光景そのままを描く
これから世の中がもっと便利になって、楽ちんになる。
そうすると、わざわざ行ったり触ったりしなくても、なんでも自分の思い通りになると勘違いする人が増えると思うんだ。
だからこそ「存在」が大事なんだ。
世界から「存在」が失われていくとき、必ず写実の絵が求められる。
それは、絵の話だけじゃなくて考え方、生き方の問題だから。
塩田武士「存在のすべてを」朝日新聞出版 p436
写真は単眼なので焦点以外はボヤけますよね?
でも絵画は、画家の両目の視差で対象を捉えるので、全てにピントが合う。
だからより立体的で、門田さんのおっしゃる「迫ってくる」感覚が味わえるんだと思います。
塩田武士「存在のすべてを」朝日新聞出版 p112
写実絵画=「存在」を書ききること
写実絵画は、「写真みたい」とよく言われます。
しかし、写真では人間の目に映った光景をそのまま写し出すことができません。
写実絵画は、人間の目で見た「存在」をそのまま描くことができます。
つまり、写実絵画では人間の目で見た光景そのものを味わことができるのです。
この本を読むまでは、写実絵画と写真の違いを良く分かっていませんでした・・・
タイトルの意味
30年前に起きた「二児同時誘拐事件」の真相を明らかにする。
写実絵画のように、内藤亮と周囲の人々の秘められた人生の「存在」すべてが明かされます。
事件の真相だけではなく、事件の裏にあった壮絶な過去や家族愛までも。
このことがタイトルに込められた意味だと感じました。
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