こんにちは、あらいぐまです。
今回は、葉真中顕さんの「ロスト・ケア」をご紹介します。
物語は、ある裁判から始まります。その裁判というのが、延べ43人もの人を殺害した殺人罪で起訴された容疑者の裁判です。その43人の被害者というのは、要介護認定を受けている高齢者であり、それぞれの家族が介護に疲弊していました。この殺人のおかげで母を失ってしまったが、同時に救われたと話す娘。家族介護に悲鳴をあげる人々。善と悪とは何か。介護現場にある問題を問いかけたミステリー小説です。
この小説を読もうと思ったきっかけは、Twitterでフォローワーさんがおすすめしていた小説であり、私に介護現場の経験があったからです。介護現場の実情がリアルに描かれていて、衝撃を受けました
この小説を読み終えた時にまず思ったことが、「こんなに考えさせられる小説があるのか」という思いでした。
介護現場の問題から善と悪の問題、死刑制度まで。頭がパンクしてしまいます。
重いボディーブローをくらった感覚です。
この小説のキーワード
・介護
・家族介護
・燃え尽き(バーンアウト)
・介護は感情労働
・虐待
・善と悪
・死刑制度
キーワードを見ただけでも重いテーマということが分かります。
しかし、重いテーマだからこそ、普段は考えないようなことを考えさせてくれます。
重いテーマだから敬遠してしまう、介護なんてまだ早い、興味ないと言っている人でも一度は読んで欲しいです。
介護は誰の身にも起こりうる問題です。
一回立ち止まって、考えるきっかけにしてほしいです。
家族介護
この物語には、要介護である母の介護により、日常が壊されてしまった娘が登場します。
結局、犯人によって母は殺害されてしまうのですが、それに対して「救われた」と話しています。
また、小説では、このようなことも言っています。
絆は呪いだ
(中略)
もしかしたら、やがて息子のことを縛ってしまうのかもしれない。
あの地獄の日々が、またやってくるのかもしれない。
葉真中顕「ロスト・ケア」株式会社 光文社 p371
親子の絆を”呪い”と表現しています。
それは、壮絶な母の介護を経験したからこその発言です。
そして、自分もいつか息子のことを”介護”で縛ってしまうのではないかと不安になっています。
なんて辛い表現なのでしょうか。家族の絆を呪いと表現せざるを得ないこと。
昔は、家族で介護をするのが当たり前という風潮があったそうですが、それが無理な家庭もたくさんあるはずです。
それに現代は、少子高齢化が進み、家族にかかる負担も昔よりも大きいと思います。
そうは言うものの、施設に簡単に入居できるかといったら、そうではありません。
現実問題そういった施設に入居できるお金がない家庭は、家族で介護をする選択肢しかない場合があるのです。
”特別養護老人ホーム”という安価で入居できる施設もありますが、定員があるためすぐに入居できる訳ではありません。
民間の企業が運営している”有料老人ホーム”という施設もありますが、入居にお金がかかります。
施設によって値段はバラバラなため、一概には言えませんが、保険を適用しても月額で20万円はかかってしまいます。
ただ、施設といってもTVでよく聞く”特別養護老人ホーム”とか”有料老人ホーム”だけではありません。
認知症専門の介護施設である”グループホーム”や在宅介護をしながら泊まりなどのサービスがある”小規模多機能型居宅介護”など普段聞きなれていないサービスがたくさんあります。
この小説のように家族介護で日常が壊れないように、行政や民間企業もサービスを提供しています。
自分が知らないだけで、様々なサービスがあるので、まずは相談して自分に合ったサービスを選ぶことが大切です。
<在宅系サービス>
・訪問介護:自宅にヘルパーがやってきて入浴やトイレなど介助する。
・通所介護:日中、送迎車が自宅に来てお客様を通所介護施設に連れていく。そこで入浴やレクリエーションなど楽しむ。日中に介護の負担が減る。
・訪問入浴:浴槽を車で積み、お客様の自宅へ行き、入浴の介助を行う。家に特別な入浴設備などない方でも入浴できる。
・小規模多機能型居宅介護:訪問・通所・宿泊の3サービスを複合的に受けることが出来る。
<施設系サービス>
・特別養護老人ホーム:入居費用が安価である。ただし、入居待ちが多数いる。介護度が重い人しか入居できないデメリットもある。
・有料老人ホーム:入居費用がピンキリ。安いところから超高級老人ホームまで様々。
・グループホーム:認知症の人のみ入居できる。認知症ケアに長けたヘルパーに任せることが出来る。値段はピンキリ。
有料老人ホームで働いていた経験
私は、介護企業に勤めており、そこで実際に介護の現場に携わったことがあります。
この小説にも書いてある通り、介護現場では人の出入りが激しく、常に人手が不足している状況です。
この小説には、斯波という介護を仕事にしている人物が登場し、介護の仕事について話しています。
斯波は介護の現場で働く中、これとよく似た光景を何度か見ている。
意欲を失って働いていた者が、みるみるそれを失い屍のようになってしまう。「燃え尽き」と呼ばれる現象。特に介護の世界にある種の理想を抱いて飛び込んできた者ほど、そうなりやすい。
介護は対人サービスだ。単に物理的に相手の面倒をみれば良いというわけではない。「まごころ」などと表現される、感情面でのサービスも仕事の中に含まれている。笑いたくなくても笑顔を作り、やりたくないことでも喜んでやっているように振る舞い、共感できなくても頷かなければならない。感情という本来コントロール不能なはずのものを無理矢理コントロールしなければならない感情労働としての側面が、介護には多分にある。
葉真中顕「ロスト・ケア」株式会社 光文社 p120
この文章を読んだとき、「ほんとにその通りだな」と思いました。
介護=サービス業であり、利用者のために笑顔でいなければなりません。
しかも相手は認知症などの病気を患っており、サービスをするのも技術や知識などを求められます。
利用者は社会的な弱者であり、暴力を振るえば虐待として扱われます。
TVなどで、介護士が利用者に暴力を振るったというニュースが出ているのを目にした人も多いでしょう。
このようなニュースを見ると、やるせない気持ちになります。
介護現場では、社会的な弱者とされる利用者に、暴言を吐かれたり、暴力を振るわれることがあります。
ただ、その大半は介護士が我慢しているのが実情です。
そのような中で感情をコントロールしながら、笑顔を作らなければいけないのです。
人によっては、壊れてしまうのも無理はないと思います。
だからといって、利用者に暴力を振るうのは絶対にやってはいけないことです。
ただ、介護士の状況や気持ちを考えて欲しいのです。
マイナスの面ばかり伝えましたが、介護現場では暖かな触れ合いも多くあります。
というか、温かい言葉をかけられることがほとんどです。
利用者の人は、優しく「ありがとうね」と言ってくれますし、働いている私たちのほうが元気づけられることもあります。
今でも、介護現場で記憶に残っていることは、利用者の笑顔です。
黄金律
この小説は、聖書の言葉から始まります。
だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。
これこそ律法と預言者である。
マタイによる福音書 第七章 十二節
わたしが来たのは
地上に平和をもたらすためだ、と思ってはならない。
平和ではなく、剣をもたらすために来たのだ。
わたしは敵対させるために来たからである。
人をその父に、娘を母に、嫁をしゅうとめに。
こうして、自分の家族の者が敵となる。
マタイの福音書 第十章 三十四節~三十六節
これらの一文がなぜ、小説の始まりに書いてあるのかは、最後まで読むと分かります。
この言葉が、小説で起きた事件の核となります。
聖書は、世界で一番読まれている書物だと言われています。しかし、現代の日本においては、読んでいる人は少ないでしょうね。高校の時、学校で配られたのは覚えていますが・・・
聖書って、この小説のように引用されることが多いんですよね。この前見たウォーキングデッドでも引用されていましたし。一度、しっかり読んでみたいです。
こんな方におすすめ
・ミステリー小説が好きな方
・考えさせられる小説を読みたい方。
・介護現場で働いている(働いていた)方
・介護に興味がない方
とても考えさせられる内容ですので、ぜひ一読してみてください。
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